2020.03.06

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「いまや マス広告 も『運用』する時代が来ている」:アイレップ取締役 北爪 宏彰氏

コラムはアイレップが運営するWebメディア「DIGIFUL(デジフル)」からご覧いただけます。

この記事は『DIGIDAY』からの転載記事です。

すべてがデジタル化した社会では、マス/デジタルという棲み分けは、もはや意味をなさない。

たとえば、従来マスマーケティングの主役であったテレビCMは、これまで成果を定量的に測ることが困難だった。しかし昨今は、検索行動やWebサイトの訪問データから、その効果を定量的に把握し、投資対効果を明らかにするだけでなく、インターネット広告のように「運用」することも可能になりつつある。

「いまでは従来インターネット広告で用いられてきたCPAやCPIといった指標を、テレビCMの効果測定で用いることもできる」と、株式会社アイレップ 取締役 北爪宏彰氏は語る。「また、クライアント企業のオフラインマーケティングに対する意識も、投資対効果を重視する方向に向きつつある」。

博報堂DYホールディングスの完全子会社となってから1年。かつてデジタル専業のエージェンシーであったアイレップは現在、「次世代型デジタルエージェンシー」として、グループ内の知見やノウハウを生かした、デジタル/オフラインを横断した統合的なプランニングを行なっている。アイレップが描く、デジタル時代のマーケティングのあるべき姿とは何か、北爪氏に聞いた。

博報堂DYホールディングスの完全子会社化から1年。アイレップにどんな変化がありましたか?

少し歴史を紐解くと、アイレップは、2002年にGoogleアドワーズ広告の日本第1号認定代理店となって以来、ずっとクライアント企業の、デジタルマーケティングにおける課題解決に務めてきました。特に、2006年に博報堂DYグループの仲間入りをしてからは、独立会社としての業務のほか、博報堂DYグループ内の広告会社の先にいらっしゃる、クライアント企業のインターネット広告運用や、分析のサポートも行なってきました。

2016年からは博報堂DYグループ内の広告会社経由での広告運用や分析サポート業務は、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム社に機能ごと移管をし、アイレップはクライアント企業との直接業務のみにフォーカスすることになりました。また、一昨年2018年10月に博報堂DYホールディングスによるTOBを経てからは、ホールディングス傘下における、フロントライン企業としての立ち位置が、より明確になりました。

アイレップが現在サービス提供するものは、マーケティングにおける課題解決であって、デジタルに閉じたものでなくなったのです。こうしたこれまでにない取り組みを可能にしているのは、博報堂DYメディアパートナーズとの連携にあります。同社が持つ生活者やオフラインメディアに関する多様なナレッジの存在は非常に大きいと考えています。

博報堂DYグループにおけるアイレップ

博報堂DYグループにおけるアイレップ

また、我われはグループ内の総合広告会社とは、異なる役割も期待されています。それは「次世代型デジタルエージェンシー」として、デジタル時代に求められるマーケティングを再定義することです。クライアント企業のマーケティングの目的は変わらずとも、その目的を達成するための手段やプロセスは、大きく変化をしてきています。

あるシンクタンクの調査によれば、ここ2~3年以内にマーケティングのやり方を、従来の延長ではなく、抜本的に変革したいと考えているクライアント企業の数は、3割に上るそうです。私たちの存在理由は、そんな方々の変革のパートナーとなることだと考えています。

「アイレップは『次世代型デジタルエージェンシー』を目指す」と語る北爪氏

「アイレップは『次世代型デジタルエージェンシー』を目指す」と語る北爪氏

次世代型デジタルエージェンシーとは、具体的にどんなものでしょう?

デジタル/オフライン関係なく、クライアント企業の戦略や投資対効果にしっかりコミットし、クライアント企業の事業に貢献できる、協業型・伴走型のエージェンシーといったところでしょうか。

従来、特にオフラインマーケティングに関しては、マーケティングの上部ファネルに対する「Plan(計画)」と「Do(実行)」が偏重されてきました。しかし昨今、クライアント企業の意識は、定量的なデータに基づいて、マーケティング投資の妥当性を検証する方向に向きつつある。それに伴い、エージェンシーが求められる支援のあり方も、打ち上げ花火のプレゼン型ではなく、クライアント企業と事前に戦略やKPI、両者の役割分担を協議した上で、伴走し「Check(評価)」と「Act(改善)」を行う、協業型に変化してきているといえるでしょう。

実際、我われのクライアント企業の多くは、マーケティング投資は一発の打ち上げ花火でも、短期的な販促費用だけでもなく、ゴーイングコンサーンからブランディングまでをも包括した競争戦略のためのものだと認識し、その短期・中期の戦略に対する整合性や、それに対する投資対効果を重視したマーケティングを実践するクライアント企業が増えています。その背景には、社会の急速な変化、そしてそれに伴うビジネスモデルの変化などが危機意識としてあるのだと認識しています。

アイレップは、これまで運用型広告の領域で培ってきた数字への強さや、改善を繰り返す運用の粘り強さを中核の能力に、クライアント企業のマネジメントの方々が、昨今ますます重視する単年度成果に応えつつも、その先の競争戦略までご一緒できるように、成長していきたいと考えています。

なるほど。では、御社が定義する「運用力」とは?

クライアント企業の事業成長のため、自社のデータ/マーケットのデータ/プラットフォームのデータなどを見て、戦略・計画を立て、施策を実行し、その効果を定量的に観察し改善するスキル、もしくは実行体制と捉えてもらえればいいかもしれません。

運用型広告の世界では、広告費は「投資」として認識されます。それ故、最終的にその投資がどういう成果に繋がっていくかを、確証の高い相関関係で示すことが求められる。あらゆることを、できる限り見える化して運用するという、デジタルマーケティングの特性を、オフラインマーケティングにも適用すれば、これまで以上にクライアント企業の大きなマーケティング課題に寄り添えると考えています。

その運用力を活かしたソリューションが「科学するテレビCM」だと

その通りです。我われの提供している「科学するテレビCM」は、運用型広告と同様に、仮説検証をまわしながら、戦略により寄与しやすいクリエイティブやメディアの出し先を探すことでテレビCMのよさを余すことなく活用する取り組みです。

プロトタイピング型テレビCM制作

プロトタイピング型テレビCM制作

スマホによって、生活者の考えていることや意図していることが、すぐにオンライン上の行動に反映するいまの時代では、オフラインマーケティングの成果の一定の範囲は、デジタル側でかなり正確に補足することが可能になっています。たとえばテレビCMの場合、CMが放映されて3~10分くらいのあいだで、検索行動をはじめ、Webサイトの来訪者数などのリフトを実数で見るようにしています。

これは、いままで検索連動型広告に携わってきた、我われだからこそわかるのですが、特に検索行動は、生活者への刺激の有効性を把握するのに、非常に有効なインデックスです。なかでも、指名検索の価値は非常に高い。こうしたデータを活用すれば、主にデジタルで用いられてきた、CPAやCPIといった指標を、テレビCMにも応用して用いることも可能です。

「いまやオフラインの成果ですら、デジタルで定量化することができる」と北爪氏

「いまやオフラインの成果ですら、デジタルで定量化することができる」と北爪氏

それは興味深いですね。では、逆にアイレップの現在の課題はなんでしょう?

変化のための投資と時間の短縮です。

デジタルで長くやってくると、知らず知らずのうちに、限られたハコの中で閉じて考えるようになってしまいます。獲得効率はいくらなんだ、上がったのか、下がったのか、みたいな話です。で、結局、獲得効率でみるとサーチ・リマケ・ダイナミック以外にはなかなか手を出す理由がない、と考えてしまうような発想です。

ただ、繰り返しになりますが、クライアント企業にとって事業を取り巻く環境は大きく変わっています。そのなかで、クライアント企業のマーケティングのパートナーとなるためには、アイレップ自身がより事業側の目線を獲得し、課題に基づいた戦略やKPI、役割分担を見直しできるようになっていく必要があります。いま、先進的なクライアント企業と取り組みをはじめ、結果がでてきていることを、もっと組織的に実行できるようになるためには、デジタルマーケター特有の思考特性を、一歩前に進める必要があると感じています。

そのためには、組織の多様性も必要です。私は、7年前に博報堂からアイレップに移ってきましたが、これまでやってきたことは、アイレップのよいところ(運用型広告に強い人材やノウハウ)と、博報堂のよいところ(戦略的な発想やプランニング力、クリエイティブアイディア)とを見極め、人を採用したり、組織を編成したりすることで、くっつけたり、編み込んだりすることでした。これを投資によって、もっとスピードアップしていきたいと考えています。

最後に、今後の展望を教えてください

アイレップの強みを拡張していきながら、時代に追いつき、時代を先取りするようなマーケティングが実践できる組織を作っていきたいです。

アイレップのミッション

アイレップのミッション

マーケティングと一言でいっても領域は大変広いので、全てをやることができません。ただ、これまで我われはさまざまな広告プラットフォームと協業してきたこともあり、Google、Yahoo! JAPAN、Facebook、Twitter、LINE、Criteoといった巨大なプラットフォームとの距離が近い。こうした強みも活かしながら、デジタルデータの解析を基盤に、博報堂DYグループのオフラインマーケティングまでも手段として取り入れた、協業型・伴走型のエージェンシーを目指したいですね。

執筆者
北爪 宏彰(きたづめ ひろあき)

東京大学在籍時の起業経験を経て、博報堂入社。2006年より博報堂全社のデジタル改革組織に参画。顧客とのエンゲージメント視点に立ったブランド戦略プランニング、およびインタラクティブ領域を中心としたROI重視のマーケティングを推進。2009年社長賞受賞。2010年よりHarvard Business School留学、2011年修了、アルムナイ資格取得。米国MarketShare社を経て、2013年よりアイレップに参画。マーケティング統括室長、コーポレートコミュニケーション本部長を経て、2018年取締役CMOに就任。現在、メディア領域、プランニング領域、クリエイティブ領域、アドテク領域を管掌。