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サヨナラ広告、コンニチハ効告。『16マス・プランニングメソッド』によるクリエイティブ・ワークショップのススメ。

先日、Think with Google にとても素敵なビデオサマリーが投稿されていました。
スピーカーはGoogle のグローバル・クリエイティブディレクターBen Jones氏。Think with Google のレポートは常に注視していますが、今回のビデオは特に、これからあるべきクリエイティブとデータの関係、それらを計測する様ざまなサービスツールを活用する意義などについて、とても明快に語ってくれているものでした。

Google では、パネルやフォーカスグループ調査を用いません。すべてがLIVE。何が起こっているのかを、データで見ることからはじまります。(中略)Google は豊富なビッグデータセットの分析により、あらゆる広告効果の可能性の扉を広げられると考えています。データセットをもとに法則性に則った広告づくりをしていくことで、広告づくり全体のルールが変わっていきます。機械学習はもちろん効果をもたらすでしょう。いくつかのデータはクリエイティブアイデアの有効性の裏付けとなり、より良いムービー制作に役立ちます。クライアント企業はマーケットで効果的に振る舞い、さらにチャレンジングな試みをも実現できるようになるでしょう。データは、他の道具と何ら変わらない道具です。我々に大いなる示唆を与え、可視化するものです。でもそれは、クリエイティビティと共にあるものであって、決してクリエイティビティにとって替わるものではありません。ブランドにとっての真のブレークスルーは、(データと共に)常に新しい試みを続けていかなければ、実現しないでしょう。
筆者対訳:What Google's Unskippable Labs has learned from running over 250 video ad experiments(3月11日に公開)※1
縦軸PF×横軸KPI
デジタル視座だからこそ可能な16マス・プランニング
2年前、博報堂在籍時にまとめた『16マス・プランニングメソッド』※2は、Jones氏の言うところの、データセットによる広告目的の裏付け=説明責任を果たすために、メディア(プラットフォーマー)ごとの「振る舞い」を可視化し、クエリエイティブアイデアを定着させていくためのワークショプツールとして、開発したものです。(図1)

アイレップに着任した2018年春。まず依頼を受けたのがこの『16マス・プランニングメソッド』を活用した、Instagram施策のためのワークショップの実践です。デジタル広告運用において圧倒的な実績を持つアイレップ。このことは、取りも直さず各プラットフォーマーのデータセットを日々たゆまず読み解き、プランニング力を鍛錬することで実現、総合評価として勝ち得てきたアイレップの誇るべきブランド価値です。その価値を少しでもアップデートできるなら、とクライアント企業を巻き込こんだワークショップが、始まりました。16マスは、Instagram用にカスタマイズしたものをあらたに策定し、臨んでいます。(図2)


クライアントとの共創・創発
アイデアを次々ぶつけ合い、アップデートしていく
『16マス・プランニングメソッド』は、クリエイティブ開発のためのグループワーク・メソッドです。属人的な一人のクリエイターの閃きや(もちろん閃きは大事ですが)クリエイティブディレクターの鶴の一声で表現の方向性を決めるのではなく、クライアント企業を含めたワークショップメンバーが、顧客のメディア接触の実際を通して ―つまりふだん自分自身がメディアを通して見聞きしている現実― 何を面白いと感じ、何をスルーするか、つまり何に興味を持ち惹かれるか、何が課題を解決してくれそうなものかを、具体的にみんなで話し合いアイデアを定着させていく、クリエイティブ作業のプロセスマネジメントなのです。ワークショップ自体はスプリント方式。5~6人のグループに分かれて付箋紙を使ってアイデアブレスト。手短にアイデアを言語化する。メンバーの前で声に出して発表する。出たアイデアはだらだら説明しない。他のメンバーはそのアイデアをどうすればさらに良くなるか突っ込む。批判はしない。感想は言わない。アイデアを次つぎぶつけ合いアップデートしていく醍醐味がそこにあります。
自分の言葉で「打ち手」を考える
「想像力」を「創造力」にしていく
生活者としてのパーセプションを信じ、自分の言葉で「打ち手」を考える。クライアント企業の商品やブランド課題を、自分自身の日々の欲求や悩みを通し、どんな知覚刺激を与えるべきかを、見極めていく。具体的に、目的的に。2時間ほどのアイデアスプリント術習得には慣れが必要ですが、チームで短時間にギュッと創発しあっていくことで、クリエイティブも配信プランも、あたらしい発見をすることが可能です。単にオリエンテーションやブリーフに書かれた事柄の整理では辿り着けない、本質的な課題は何か。あたらしいマーケットへの示唆を発見できるか。「偶然完全」を楽しみながら、想像力を創造力にしていくための所作なのです。

漏斗(ファネル)に口を開けて待っている顧客はいない
脱・フルファネル=マーケティング&コミュニケーションのエコシステム化が進んでいる
企業のCMO・経営層の皆さまは、上述の「縦軸=PESO」×「横軸=KPI」で施策とすべきプランのすべてをプロットし、全体の整理術としてメディアとクリエイティブの効果検証を俯瞰して判断していただけます。また、実務レベルでは「縦軸=プラットフォームごとのメニュー」と「横軸=クリエイティブKPI」の最適化を検証しながら、ワークショップによるプランニングをお勧めしています。16マス個々の「セル」に記すべきアイデアは、すべて計測可能な指標をベースに精錬していくことを求められます。ワークショップで貼り出されたアイデアを16マスにプロットしてみるとわかること。例えば、
check_box_outline_blank まずはTVCMで認知を稼いでから?(ローテレ/ノーテレ。そのCMホントに観てもらえてます?)
check_box_outline_blank 動画で何を伝えるべきか?(バズればいい?3日で忘れられますよ)
check_box_outline_blank ブランド名をとにかく連呼?(否。単なる連呼では有効な認知は獲得できません)
check_box_outline_blank インパクト狙いのオープニングでCPCV(視聴完了率)を?(で?観たあとはどうなるの?)
などです。最近は単なるPV数だけではなくエンゲージメントへの効果指標のウエイト付けが重要視されてきてはいるものの、仮にその動画を最後まで観続けてくれたとしても、次の瞬間、ユーザーの手のひらには新たな刺激が待ち受けていることも鑑みながら、プランの真価を検討すべきでしょう。(図3)

モバイル/Always On
すべてが動画になっていく時代の、プランニングの在り方とは?
インタラクティブなツールやサービスの進化、“デコったり”、投稿したり、クイズやアンケートに参加したり。顧客のメディア接触状況から自明なことは、顧客はもはや、「認知から検討購買に至るまでしっかりと各フェーズで施策を構築し待ち受けるべし!」というフルファネルのプロセスを順に追ってはくれない、ということです。またその評価も、リーチ・エンゲージメント・コンバージョンなど各々のメディア特性による個別KPIは満たせても、果たしてそれが巧く相互寄与しワークしているのかの判断すら見えにくい状況です。ブランドの価値をセイリエンスとして精緻化し、いつ、どこで、「!」を生み出せるか。デジタル視座によってアイデアを精錬していくこと。より最適で効果的なメディア接触を生み出すこと。“ググって”、“タグって”、シェアして暮らしている生活者の「探求」行動=単純検索を、「探究」行動=真理追求へと、向かわせることができて、はじめて今の時代のコミュニケーションの在り方が見えてくるのだと考えています。Searchは「欲望」。人生はQ&Aの連続ですからね(笑)。
クリエイティビティとは、様々な事柄を、
それまでとは異なるやり方で新しく結び付けること
16マス・ワークショップの場で必ず最後に参照してもらうメッセージがあります。
クリエイティビティとは、言ってみれば物事をつなぐことにしか過ぎません。クリエイティブな人たちにどうやって彼らがうまくやれたのか聴いたとしても、彼らは少し後ろめたく感じるだけでしょう。何故なら彼らは本当に何かを成したのではなく、ただ見つけたに過ぎないからです。(中略) クリエイティブな人々は、経験を結びつけ、新たなものを生み出します。彼らは、より多くのことを経験してきたから、あるいはその経験に基づいて、他の人たちより多く考えてきたから、それができるのです。※3
—Steve Jobs
「伝える」≠「伝わる」
何が人の心を動かし「!」=感動・興奮・驚き・強い印象をつくるのか?
データドリブンという言葉がここかしこで使われるようになって久しいですが、データドリブンって、一体、何なのでしょう?『New Dark Age』の著者James Bridle氏の言葉※4を借りれば、Computational Thinking(計算論的思想)とSolutionism(解決主義)が加速度的に進む現在、あらゆる経済活動は、集められた「データ」を基準に効果検証され、「正しい」とされる答えに導かれていくような時代になりつつある、と言われています。これは、日々動画を中心としたクリエイティブに携わる身として、大いに考えさせられるメッセージでした。どうやって効果的に「伝えるか」。運用もクリエイティブも、その精度を高めることでより進化していける。もっと正確に、もっとスピーディに。しかしながら、忘れてはならないことは、「伝える」≠「伝わる」ということ。DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)からCDM(カスタマー・データ・マネジメント)へとますます生活者個々人へのアプローチにしのぎを削る時代に、何がほんとうに、人の心を動かし「!」をつくれるか。指数化された「客観データとしての個人」、そしてその個人の集まりである「ターゲット」層を潰していく、という発想ではなく、データの示す人の姿を読み解き、心をつかみ、動かすにはどうすればいいのかを発見すること、見極めること。それが、わたしのクリエイターとしての永遠の課題であり、日々その繰り返しを続けています。

良質な「体験」データが揃っていないと、最適なクリエイティブは生まれない
世間ではよく、右脳・左脳で脳の働きを話題にしますよね。言語や映像も、いわゆるデータセットとして、人の大脳皮質にそれぞれが五感を通した記憶として、それぞれを司る部位に長期保存されるわけですが、そもそもそれらの元となる情報の入力は、人のリアルな「体験」を通して、古皮質(大脳辺縁系)にある海馬という組織で「意味のある出来事」として整理され、「価値ある情報」として記憶されていくわけです。意味ということばの「味」というのが、面白いですよね。「味」なんですよ、「味」。人はそれぞれ、好み=テイストが違う。「マス」や「ターゲット」という一元的な解釈では、本質的には「人」は測れない。人は、それぞれ違う意味・意義を、映像×言語のデータセットとして記憶していきます。データの「パーソナライゼーション」と言われ始めていますが、これも本来はリアルで良質な「体験」を通して「価値ある情報」として活用されていくことでしか、成し得ない。近年AIが、人の脳のメカニズムを模したDeep Learning、つまり意味あるもの・価値あるものをデータセットとして繰り返し認識すること=「深層学習」するというプロセスにその進化の緒を見出した理由は、そこにあると思います。
「コンセプト」は吟味された「具体の集積」から
KJ法※5によるアイデアスプリントが大切なワケ
話は日々の業務に戻りますが、打合せをしていて、よく「この商品のコンセプトは」だの「概念は」など言う人がいますが、「概念」が「概ね」と書く通り、具体の集積から「だいたいこんなことだろう」と推論することであって、その元となる「具体」=データをよく吟味し測らずして「コンセプト」云々が独り歩きすると、大抵ろくなことにはなりません(笑)。16マス・プランニングもそうですが、KJ法やアイデアスプリントが重要なのは、そういった具体的な「体験」、個々人にとっての意味や価値を、グループワークを通じて、少しでも良質な「教師データ」として集積していくプロセスだからです。はじめから「データ」や「コンセプト」なるものが存在するわけではない。良質な「体験」データが揃っていないと、良質なクリエイティブは、生み出せないと考えています。
クリエイティブから運用まで
「一期一会を最高の広告体験に」するために
check_box A社:アイレップ制作動画のクリック率(CVR)、他社制作TVCM比×1.5倍
check_box B社:アイレップ制作Bumperのクリック率(CVR)、約130%
check_box C社:アイレップ制作のTVCMにより、サーチリフト前年比大幅アップ
check_box D社:アイレップ制作TVCM&動画投下後、加入者目標値140%達成
check_box E社:アイレップ制作動画接触後のクリック率(CVR)、前年比×15倍
上記は、2018年度の成果の一部です。今まで博報堂のTVCMクリエイターとして培ってきた技術や経験、ブランドビルドのための統合コミュニケーション設計の知見、番組コンテンツのプロデューサー体験などを通し、様ざまな「動画視聴」の在り方を、チームに示唆し提供してきました。スピーディかつ変幻自在に、世の中の動向をLIVEに捉え、人の心に寄り添い、刺激を与えられるクリエイティビティの創発を。欲望と混沌の時代に、あたらしい秩序と調和(new order&harmony)を。クリエイティブから運用まで、デジタル視座で即座にそれらを精錬していくことが可能なのがアイレップの強みです。アイレップのコーポレートメッセージにある一節「一期一会を最高の広告体験に」するために。共に気づき、共に考え、クリエイティブとデータの関係を、より良い方向へと進化させていきたい。サッカーで言えばTiki-Taka、野球で言えばスモールベースボール。大ファンである「元・イチロー選手」に習い、最低60歳まで現役でプレーし続けること!(笑)チームの素晴らしい面々と共に、アイレップ2期目のチャレンジが始まっています。
コミュニケーションデザインUnit
インタラクティブデザインDiv
第1インタラクティブデザイングループ
エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
山本 正人
経歴:
1984年 博報堂入社。CMプランナー/コピーライター
2000年 クリエイティブエージェンシー博報堂C&Dクリエイティブディレクター
ブランディングや課題解決型コミュニケーションに従事
2012年 博報堂メディアパートナーズ統合コミュニケーションデザインセンター赴任
TV番組企画やラジオ番組プロデュースを手がける
2014年 博報堂インタラクティブデザイン局勤務
Web企画やプラットフォームの開発に従事
2017年 博報堂DYグループの4社合同・動画統合ソリューションhakuhodo.movie設立
2018年 アイレップ出向。エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
主な受賞歴:
電通賞、フジサンケイグループ大賞、ACC賞、カンヌ広告賞ショートリスト、TIAAなど
広告賞受賞多数。『博報堂の仕事1960-2007』に3本―
